判決の内容
1993年から勤務していた京都市バスの運転士は、2022年2月、運賃を支払う乗客から受け取った1,000円札を自分のものにしました。同じ週に、規則に反して運転席で電子たばこを5回吸っていました。いずれもドライブレコーダーの映像に残っていました。上司から着服を指摘された際、運転士は当初これを否定しました。2022年3月に懲戒免職となり、交通局は一般の退職手当約1,211万円の全額を支給しないこととしました。
大阪高裁は懲戒免職を有効としつつ、全額不支給は過重であるとして取り消しました。損害は1,000円で弁済済みであり、勤続29年で金銭の取扱いに関する懲戒歴もないという理由です。最高裁第一小法廷は全員一致でこれを破棄しました。1人で現金を扱う業務中に運賃を着服することは運転士の職務の根幹に関わり、市営バス事業に対する公共の信頼を損なうものです。喫煙の規則違反、当初の否認、酌むべき事情がないことも併せれば、退職手当の全額不支給は使用者の裁量の範囲内であるとしました。
本判決は、飲酒運転で懲戒免職となった教員に関する2023年6月の最高裁判決に続くもので、同判決は公務部門の退職手当不支給について同じく裁量を尊重する判断枠組みを示していました。
なぜ重要か
本件は市の職員に関する退職手当条例に基づいて判断されたもので、裁判所の審査は裁量権の濫用の有無に限られます。民間企業の退職金不支給はより厳格に判断され、通常は長年の勤続の功を抹消するほどの行為が求められ、一部の支払を命じられることも少なくありません。それでも本判決は、信頼を前提とする職務での金銭に関する不正を、裁判所がいかに重く見るかを示しています。
企業が取るべき対応
- 不支給条項を確認する。 そもそも適用するには、就業規則または退職金規程に定められていなければなりません。
- 職務と結びつける。 会社や顧客の金銭の窃取など、どのような非違行為が全額または一部の不支給につながり得るかを明記してください。
- 証拠を保全する。 録画映像と従業員の当初の反応が重視されました。保存しておいてください。
- 懲戒解雇と退職金不支給は別々に判断する。 裁判所はそれぞれを審査します。民間企業では、懲戒解雇が有効でも全額不支給が認められるとは限りません。
出典
- 最高裁判所第一小法廷2025年4月17日判決、令和6年(行ヒ)第201号
- 最高裁判所第三小法廷2023年6月27日判決、令和4年(行ヒ)第274号