判決の内容
従業員は2001年、県の福祉施設で福祉用具の改造・製作を行う技術職として採用されました。施設の運営は2003年に滋賀県社会福祉協議会が引き継ぎ、従業員は約18年にわたりその業務に従事していました。職種を限定する書面はありませんでしたが、下級審は、その業務にのみ従事させるという黙示の合意があったと認定しました。需要の減少に伴い、協議会は本人の同意なく、2019年4月1日付で総務課の施設管理担当に配置転換しました。下級審は、この配置転換を解雇を回避するための正当な措置として認めました。
最高裁第二小法廷は全員一致でこれを否定しました。職種や業務内容を限定する合意がある場合、使用者には、労働者の個別の同意なくその合意に反する配置転換を命じる権限そのものがありません。権利濫用かどうかという問題はそもそも生じないとしました。事件は差し戻され、2025年1月、大阪高裁は協議会の不法行為責任を認めました。
なぜ重要か
1986年の東亜ペイント事件以来、日本の使用者は広い配転命令権を前提としてきました。本判決はその限界を示しました。配転命令権は契約内容次第だということです。ジョブ型採用が広がり、2024年4月からはすべての採用時の労働条件通知書に就業場所と業務の変更の範囲を明示することが義務付けられる中での判決です。
企業が取るべき対応
- 変更の範囲を意図的に定める。 専門職の採用では、配置転換の余地を残す必要があるかをオファー前に決め、労働条件通知書に明記してください。
- 黙示の限定に注意する。 1つの専門職に長く従事していると、書面がなくても限定の合意が成立することがあります。
- 同意は書面で得る。 職務がなくなる場合は、代替の職務を提案し、本人の同意を記録してください。命令してはいけません。
- 限定を前提に組織再編を計画する。 職種限定の従業員については、解雇回避のための配置転換を命令によって行うことはできません。
出典
- 最高裁判所第二小法廷2024年4月26日判決、令和5年(受)第604号(滋賀県社会福祉協議会事件)
- 大阪高等裁判所2025年1月23日差戻審判決(労働新聞の労働判例ダイジェストで紹介)
- 長島・大野・常松法律事務所、同最高裁判決の解説(2024年7月)