見出しはすでにご覧になっているでしょう。日本の人手不足は過去30年で最悪の水準です。日本銀行の短観(数千社の景況感を四半期ごとに調べる調査)では、2026年6月の雇用人員判断DIがマイナス37となり、大多数の企業が人手不足を訴えています。失業率は2.6%前後、有効求人倍率は1.18倍程度です。数字の上では、誰もが誰かを奪い合っているように見えます。
もしこれを前提に計画を立てているなら、見ている数字が間違っています。
平均値は誤解を招く
全国の有効求人倍率、つまり求職者1人あたり1.18件の求人という数字は、さまざまな職種を混ぜ合わせたものです。こうした平均値は経営者を安心させ、「厳しいが、それほどではない」と思わせてしまいます。しかしその内側をのぞくと、市場はほとんど接点のない二つの経済に分かれています。
建設は求職者1人あたり約6.7件の求人があります。事務職は約0.45倍で、求職者2人に対して求人が1件にも届きません。同じ国、同じ月の数字です。一方の分野は深刻な飢餓状態にあり、もう一方は人が余っています。

ですから、取締役会が「人手不足」と聞いて、あらゆる職種で一様に人を奪い合っている姿を思い浮かべるなら、自社の課題を読み違えています。事務職を希望する人が不足しているわけではありません。深刻に不足しているのは、事業を実際に前に進める特定の希少な人材です。IT(約22万人が不足しているとされます)、看護・介護、サイバーセキュリティ、AIの専門家、熟練技能職。そして、私が日々向き合っている、グローバル本社と日本の組織の間で動けるバイリンガルのシニアリーダーです。
この最後のグループは、見出しに出てくるどの倍率にも含まれていません。全国統計の上では誤差程度の存在ですが、私のクライアントの多くにとっては、今年最も難しい採用になります。
一時的な不調ではなく、構造的な問題である理由
ここからが、計画の立て方を変えるべき部分です。これは、好景気が一時的に労働供給を上回っているという状況、つまり成長が落ち着けば和らぐような逼迫ではありません。人口動態の問題です。高齢化が進むなかで、日本の生産年齢人口は減り続けています。OECD(パリに本部を置く先進国の機関で、『雇用見通し』でこの問題を追っています)は、これを平均に戻っていく問題ではなく、何年にもわたって悪化していく問題と位置づけています。
採用を担うリーダーにとっての意味はこうです。今見つからない人材は、次の四半期まで待っても見つけやすくはなりません。いまや希少であることが例外ではなく、前提なのです。
このミスマッチが実際にもたらすコスト
賃金は、あらゆる職種ではなく、逼迫している分野で上がっています。人手不足の分野では、早い段階で人材を確保するために初任給が上昇しています。報酬レンジを「平均的な」市場に合わせて設定しているなら、最も獲得したい職種ですでに競り負けています。
小規模な競合企業は倒れつつあり、その人材が動いています。人手不足倒産、つまり人を確保できないために立ち行かなくなる企業は現実に増えています。その結果、優秀な人材が市場に出てきており、素早く動ける企業がその人材を獲得できます。
コスト面では、採用よりも定着の方が有利です。後任の確保にこれほど時間と費用がかかる以上、バイリンガル人材の層を定着させることは、もはや人事部門の「あれば望ましい」施策ではありません。損益に直結する経営判断です。
何をすべきか
職種を、全国平均ではなく実際の倍率で区分すること。 自社の空きポジションのうち、どれが6倍の世界にあり、どれが0.4倍の世界にあるのかを把握してください。そのうえで、まったく異なるかたちでリソースを配分します。人が余っている職種向けの大量採用の手法は、希少人材の職種では無駄になり、ときには逆効果にさえなります。
希少でバイリンガルなシニアのポジションについては、候補者は応募してこないと考えること。 こうした人材は現在も在職中で、転職活動をしておらず、求人サイトからは見えません。「集める」のではなく、こちらから「アプローチする」必要があります。重要なリーダー採用の戦略が「求人を出して祈る」ことなら、それは戦略とは呼べません。
市場よりも速く意思決定すること。 倍率6倍の領域では、選考期間の長さこそが最大の損失要因です。今月面接した最良の候補者は、今月ほかの企業の面接も受けています。
日本の人手不足という見出しの数字は、今年あらゆる取締役会資料で引用されるでしょう。勝つのは、その数字を最も上手に引用する企業ではありません。平均値を読むのをやめ、自社の職種に本当に当てはまる数字に基づいて採用を始めた企業です。
勝負のすべてはそこにあり、その難しさはこれからさらに増していきます。