取締役は従業員ではないため、その報酬は賃金ではなく委任に対する報酬です。会社法上、報酬の額、上限額または算定方法は株主総会の承認を要し、通常は取締役会全体の年間上限額として決議され、取締役会がその範囲内で個人別の額を決定します。2021年3月からは、大規模な上場会社は個人別の報酬等の決定方針を定め、株主に説明することも求められています。
報酬設計に会社法以上に大きな影響を与えるのは税務ルールです。会社が役員報酬を損金算入できるのは3つの形態に限られます。一定の時期に同額を支給する定期同額給与(通常は事業年度開始から3か月以内に年1回改定)、あらかじめ税務署に届け出た確定額を支給する事前確定届出給与(多くの役員賞与はこの方式で支給されます)、そして公表された客観的な算定方法などの厳格な要件を満たす業績連動給与です。期末に決定する裁量的な賞与など、これらに該当しない報酬は損金算入できません。事前確定届出は、株主総会の決議から1か月以内、かつ事業年度開始から4か月以内に行う必要があります。
2010年から、上場企業は有価証券報告書で、報酬額が1億円以上の役員を個別に開示しなければなりません。株式報酬や外国人役員の増加に伴い、その数は増え続けています。東京商工リサーチの集計では、2026年3月期は387社・934人で、いずれも過去最多でした。それでも、日本のCEOの報酬は欧米に比べてはるかに低い水準です。HRガバナンス・リーダーズが2026年6月に公表した時価総額上位企業のCEO報酬調査によると、2025年の報酬の中央値は日本が約3億円、英国が9億円、米国が40億円で、差の主因は長期インセンティブでした。
外資系企業にとってのポイント
- 裁量的な賞与は税務上の問題になる。 日本のカントリーヘッドが子会社の取締役である場合、リージョンが期末に決める賞与は、通常、日本で損金算入できません。期首に賞与の仕組みを確定させるか、事前に届け出てください。
- 子会社にとって業績連動給与はハードルが高い。 要件は、算定方法を公表する開示会社である日本企業を前提としています。外資系グループの完全子会社は、通常これを満たせません。
- 取締役になると従業員としての保護を失う。 従業員から取締役に就任する候補者は、時間外労働の規制や雇用保険の適用を失います。従業員兼務役員として二重の地位を維持する例もあり、その場合は報酬のどの部分がどちらの役割に対するものかを書面化してください。
- 株式報酬が金額を押し上げている。 東京商工リサーチは、増加の要因を業績連動報酬と株式報酬に求めています。日立製作所だけで34人の役員が開示基準を上回りました。こうした企業出身のシニア候補者は、未確定の株式を交渉の場に持ち込みます。
出典
- 会社法第361条
- 法人税法第34条、法人税法施行令第69条
- 企業内容等の開示に関する内閣府令(1億円以上の役員報酬の個別開示、2010年3月期以降)
- 東京商工リサーチ、役員報酬1億円以上開示企業調査、2026年3月期(2026年6月)
- HRガバナンス・リーダーズ、日米英のCEO報酬に関する2026年調査(2026年6月)